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文豪ストレイドッグスDead Apple小説版と、不条理な人生

ヒツジ執事が会社から帰宅したら、木苺お嬢様が布団に籠って泣いておられました。

何でも先生が、無理難題な課題を出したのだそうです。それで今日は予定通りに物事が進まず、悔しくて泣いていたのだそうです。

大人には当たり前のことですが、子供にとっては初めて経験する「人生の不条理」です。さぞ悔しかったでしょう。

事の次第が分かって一見落着しましたが、一件落着ではありません。木苺お嬢様にとっては、成長の試練の始まりです。

自らの力で不条理に対して、立ち向かったり、時には逃げ出すことを覚える必要があります。

そういう小難しい話を抜きにしても、文豪ストレイドッグスDead Apple小説版は、大変にオススメできる本です。

今回は登場人物の太宰治のように「血も涙もない」と言われるヒツジ執事が、その面白さを紹介して見ることにしましょう。

そもそも文豪ストレイドッグスとは

公式サイトでは、次のように紹介されています。

『文豪ストレイドッグス』は、現代横浜を舞台に、中島敦、太宰治、芥川龍之介と言った文豪たちが活躍する異能アクションバトル漫画。 2013年1月号の「ヤングエース」で連載が開始され、現在シリーズ累計600万部を突破。ノベライズやアニメ化など、様々なメディアミックスも展開中。

はい、よく見かける超能力バトルものです。横浜市立図書館とか、住んでいる者にはお馴染みの場所が出て来ます。

登場人物には、実在した文豪たちの名前が使われています。主人公の中島敦君は、虎になる「月下獣」という異能力(超能力)を持っています。

彼を武装探偵社という会社にスカウトしたのが、異能力を無効化する「人間失格」という異能力を持つ太宰治さんです。太宰さんは理想主義者の国木田独歩さんとコンビを組んでいて、中島敦君の指導役でもあります。

しかしこの太宰さん、特筆すべきは “頭脳” です。明晰な頭脳を持ち、悪魔のような悪知恵を考え出すのが得意です。というか、昔はポート・マフィアの史上最年少幹部で、悪魔のように恐れられていました。

「太宰の敵の不幸は、敵が太宰だったということが」と言われる程でした。

その彼が手塩にかけて育てたのが、外套を武器にする「羅生門」という異能力を持つ芥川龍之介君です。彼は太宰さんに心酔していて、太宰さんが気にっている中島敦君を目の敵にしています。ともかく良い方向にも悪い方向にも、向上心が旺盛です。

そのポート・マフィアから抜け出して武装探偵社に転職したのが、泉鏡花ちゃんという女の子です。戦闘ロボットのような存在の「夜叉白雪」という異能力を持っています。両親が暗殺者という生い立ちなので大丈夫かと心配されましたが、太宰さんが無事に転職させることに成功しました。

さてそんな太宰さんですが、強力なライバルが存在します。盗賊団「死の家の鼠」の頭目、フョードル・ドストエフスキーです。太宰さんと同じように、優れた頭脳を持っています。しかし太宰さんと異なり、人間が罪深くて愚かで困った存在であるが故に、世界を「浄化」させたいと言い切っています。困った人です。

さて小説版DEAD APPLEは、2018年に上映された映画を小説化したものです。朝霧カフカさん指導の下、岩畑ヒロさんが文章を書いています。

その「霧」のなかでは、異能力者が自らの力を使い命を絶つという―。不可解な事件への関与が疑われる謎の異能力者・澁澤龍彦の確保に動く武装探偵社。泉鏡花と共に澁澤のもとへ向かう中島敦が、敵対する芥川龍之介から聞かされた驚きの真実とは?ヨコハマに血嵐が吹き荒れた「龍頭抗争」から6年。澁澤、魔人・フョードル、そして姿を消した太宰治…過去の因縁が紡ぐ事件の行方は―。劇場版アニメを完全ノベライズ!

さすがに映画版だけあって、アニメの1シーズンに相当しそうな内容です。これが角川ビーンズ文庫一冊に簡潔に纏められており、原作者も著者も異能力を使っているじゃないかと思うほど見事です。

木苺お嬢様は映画は観ていませんが、気に入って何回も読み直しています。

(ただし、さすがに文豪ストレイドッグスを全く知らない方は、まずはマンガとか小説とかアニメで本編を知っておくことをオススメします)

ちなみに文豪ストレイドッグスの小説版は、ブックオフの2018年ラノベ年間ランキングで、女性向け人気部門の第一位に輝いています。イケメンもイクメンも可愛い少年も登場するし、危険な彼氏も登場します。

そして “バトルもの” といっても、少年漫画の王道を行く成長ストーリーです。第一位であることに頷けるストーリーです。

不親切な先生:子供扱いの終わり

さて木苺お嬢様は、先生の無理難題に対して、悔しい思いを持って帰って来ました。

しかし意図的な無理難題です。一方のヒツジ執事の場合には、八つ当たりで「あんなたんか生まれて来なければ良かった」と、子供の頃に言われたことがあります。

そして中島敦君は、『お前など、この孤児院にも要らぬ!』、『どこぞで野垂れ死ぬのが世間様のためよ』、『天下の何処にも、お前の居場所などありはせん』と言われて育って来ました。

生きる力を身に付けさせるための叱咤激励なのでしょうが、少々行き過ぎです。大人になれば似たようなことを言われることもありますが、相手はまだ無防備な子供です。

世の中とは不条理なものですが、水泳の未経験者を、いきなり船から海の中に突き落とすようなものです。彼が臆病な性格に育ったのも、分かるような気もします。

ちなみにヒツジ執事も、大変に臆病で内気な性格です。

これから起こる最悪の事態:競争

その臆病な敦君ですが、DEAD APPLEでは過去の自分を直視し、自分自身と戦うことを強いられます。

自分の最大の敵は自分だとも言います。自分を律することが出来る人が「大人」です。芥川君や鏡花ちゃんは、成すべきこととして当然のように自分自身との戦いに身を投じます。しかし敦君にとっては、なかなか敷居の高いことです。

これが “成長もの” ストーリーの醍醐味ですが、DEAD APPLEとしても最大の見どころの一つです。何度も悩んだ後に、自分と直面する決意をして、敢然と自分自身と戦うことを決意します。

少年が成長していく場面に立ち会うのは、いつ見ても良いものです。義父は高校教師でしたが、その気持ちも分かるような気がします。

しかし敦君や木苺お嬢様からすると、そんなに簡単に言ってくれるなとクレームされるかもしれません。

何しろ二人とも、並大抵の「自分」ではありません。そして木苺お嬢様の場合、魔人だけでなくて(いずれ)全国の子供たちと競争することになります。

木苺お嬢様の場合、最後に控えているラスボスは「大学受験」です。これは数が多いとはいえ、定員が決まっています。椅子取りゲームです。

たしかに命のやりとりはありませんし、実力があれば競争ということにはなりません。しかし見方によっては楽しくないシチュエーションですね。

それでも僕は生きていく:開き直り

そして敦君は、少年は、生きるために虎の爪を立てる道を選択します。気持ち良いほど開き直っています。

ちなみに最も開き直っているのは、やはり皆さんの評価も高かった中原中也でしょうか。

「ビビって帰っていい時はどんな時か判るか? ねえよ、そんな時」と言い切り、躊躇なく飛び出します。

そして、「--汝、陰鬱なる汚濁の許容よ、改めてわれを目覚ますことなかれ…..」と、アッサリと捨て身の切り札を出します。

ヒツジ執事はビビッて渋々と学校へ通っていた時期もありましたが、エラい違いです。

出来ない時は素直に認め、嵐を避けるのも一案です。勝つために逃げるという最適解も存在するかもしれません。

木苺お嬢様の場合、開き直るのはこれからでしょう。その時にどんな道を選択するのか。どうやって自分の運命に打ち勝つ生命の輝きを見せるのか。

ヒツジ執事は太宰さんのように、しっかりと木苺お嬢様の覚悟を見届けて差し上げたいと考えています。

一人でも友達がいれば:伝えること

さてヒツジ執事は、ある意味で異能力者と言えるかもしれません。虎が敦君の一部であるように、ヒツジ執事の話好きはヒツジ執事の一部です。「あんたは口から生まれたに違いない」と呆れられた時もありますが、おそらく一生このままでしょう。

おそらく遺伝子レベルで、ヒツジ執事はヒツジ執事なのです。

敦君も芥川君と鏡花ちゃんの前で、「あるべきものをあるべき場所に戻すだけだ」と言い放ち、虎の力で跳躍します。

芥川君と敦君のやり取りも良いです。「判っているな….. 何をなすべきか」と、「ああ、判ってるさ」

友達とは、良いものです。「芥川!」、「僕に命じるな!」と、噛み合わない会話も興味深いです。

一人でも友達がいれば、人生を退屈することは無いかもしれません。

小説版DEAD APPLEでは、太宰さんは「彼が退屈と孤独を埋められたならいいが」と言います。

あまり書くと面白くなくなってしまうので控えますが、この本のテーマには密かに「友達とは」が隠されているのかもしれません。

残念ながらヒツジ執事は、江戸川乱歩さんのように「超推理」を使えません。興味のある方は、是非お読み頂くのが良いかと思います。(2019年4月に新刊も出版されるとのこと)

まとめ

さて今回は小説版DEAD APPLEを、頑張って少しだけ紹介してみました。

既にお気づきかもしれませんが、木苺お嬢様とヒツジ執事はAmazon Prime Videoで文豪ストレイドッグスのシーズン1/2を観ています。

2019年4月にはシーズン3が放映されるのだそうです。

本を読んだり映画のDVDを借りる余裕のない方は、シーズン3をお子さんと一緒にご覧になっても良いかもしれません。

我が家でも、良質なドラマをシーズン3でも観ることが出来るだろうと楽しみにしています。